森川智之プライベート・コレクション

「あぶな絵、あぶり声」


「あぶな絵、あぶり声 -帰り道、あの人に抱かれたくなる-」
日時:  2010年6月26日(土) 昼の部:15:05〜16:30/夜の部:19:00〜20:30
2010年6月27日(日) 昼の部:14:00〜15:30/夜の部:18:00〜19:30
場所: スパイラルホール (東京・表参道)
出演: 岩田光央、森川智之、石井のりえ、K'suke(キーボード)
注: 18歳以上の女性限定

衣装
1日目(26日):
黒の、地に柄が入った光る織り地の長袖シャツ、 前ボタンもカフスボタンも石が入っていてキラキラ光っている。 高い襟の真ん中を、これも石の入ったピンで留めている。 素肌に直接着ていて、前ボタンはみぞおちの下まで開けている。 昼の部はカフスを折って手首を出していたが、夜の部はカフスを留めていた。
ペンダントはなし。弾丸型ロケットのチェーンだけ見えた。 右手首にいつものバングル。リングはなし。たぶん腕時計もなし。黒縁眼鏡。
ボトムは、黒のストレートパンツ、シャツはイン。 黒革にシルバーの鋲が打たれたベルト。 黒の革靴、鋲の打たれたベルトがデザインで付いている。 足の甲の上のほうまで覆っていたので、ブーツかと思ったら足首までで、 後ろはあまり高くない。踵はかなり高い(笑)。 靴下はグレー(トークショーで足を組んだときに見えた)。
2日目(27日):
トップスは、ピークドラペルで、丈が短かめのサテン地の黒のジャケット。 インナーは黒のリブ織りのタンクトップ、裾はアウトなのでベルトは見えない。 左手首に黒のバンドの腕時計、靴下は黒。それ以外は1日目と同じ。

岩田さんは黒のスーツに黒の革靴、 インナーのTシャツは1日目がグレー、2日目は黒。
石井さんは黒のホルターネック(たぶん)に、ハイウエスト位置で切り替えで、 焦げ茶にくすんだピンク色の柄の入った、 ヴォリュームのあるロングスカートのワンピース、かな? 黒のヒールサンダル。

構成

1日目は、第四章の後、キーボードの音楽とエンドクレジットが流れ、 その後にトークショー、暗転して演者たちが前に並んでお辞儀、ハケ。
2日目は、第四章の後、すぐにトークショー。その後、 キーボードも出てきてエンドクレジット、このときにスクリーンでの紹介に合わせて、 それぞれの出演者を紹介する。最初にカナタを代表して岩田さん、それから、 絵と文の石井さん、演者の岩田さん、森川さん、キーボードのK'sukeさん。 クレジットの終わりまで3人はまたソファに座って待ち、 暗転してから前に並んでお辞儀、ハケ。
お辞儀のときの立ち位置は、下手から、石井、岩田、森川、K'suke。 2日目になってやっと、演者紹介がされた。 1日目は最後まで、予備知識もパンフレットもなければ、 今ステージ上にいるあの人は誰?、状態だった(笑)。
紹介や挨拶のときも、終始無言。声を発したのは朗読と恋愛作品談義のみ。

朗読
ステージ上には、焦げ茶色の革張りのソファ。中央にふたり掛け、 その前にテーブル。左右にひとり掛けがひとつずつ。上手奥にキーボード。
後ろは大きなスクリーンになっていて、そこに大きく絵が映し出される。

朗読は、ひとり掛けのソファに座って。岩田さんは上手、森川さんは下手。 基本は座っているが、ときどき立ち上がることも。マイクはピンマイク。
岩田さんのほうが、立っていることが多い。 主人公が立った動作をしているときにはだいたい立っていたようだ。 話に合わせて、何歩か歩くこともあった。 視線を這わせ、客席を見やり、ひとり芝居といった感じ。
森川さんはほぼ座ったまま。数回立ち上がって、動作を入れたこともあったが、 ほとんど動きはなく、声だけで表現していた。表情もあまり変わらない。 台本から目を離すこともあまりなく、まれに目を上げたときも、 どこかを見ている感じではない。決め台詞を「ためて」いるだけ。 動作での芝居はほとんどなし。

基本的に4回とも同じ。だが、同じ作品でも、そのときそのときで微妙に違う。 もちろん、トチって読み直すときもあるし、意図的かミスなのか、 違う言葉になっていることもある。文章がそのまま書かれた絵本が売られていたので、 それを見ながら聴いている人がいたら、そういうのは細かくわかったかもしれない。 朗読しているときの表情とかを見逃したくないから、 手元を見ているなんてもったいないことはできなかったけど。
「読む」のだから、台本を見ているのだが、決め台詞にあたるものは、顔を上げ、 客席などに視線を投げつつ。そのタイミングも、回によって違うこともあった。 同じ台詞でもスピードが違う、息の量が違う。 ぐっと集中したとき、ふっと力を抜いてまた入り込んでいくとき、 そういう精神状態が、声や息づかいから直接感じられる。 演技プランで制御するだけではない、その場その場での空気で作られていく、 動的な流れ。たぶん、同じようにやれと言われても二度と同じにはできない、 これがライヴということなんだろう。

そういう意味では、絵本のCDとはまったく違った作品、と言っても過言ではない。 4回の公演は、それぞれ違いはあるが、同じ世界のいくつかの形、ではあった。 でもCDは、もちろん発している言葉は同じなのだが、見える世界が違う感じ。
スタジオ録音のCDだけでなく、ライヴレコーディングのCDも出ると興味深いのに。 ライヴでの世界は、その場にいた人にしか伝わらない、ということがもどかしい。

心臓の鼓動が聞こえそうな、という表現がぴったりな静寂の空間。 キーボードの演奏が要所要所に入るが、無音の時間も長い。 そこに朗読者の淡々とした声が流れ、ときどきSEが入る。 ちょっとの身動きすらノイズになりそうで、1編が終わるまでは、 身体を硬くしたまま聴き入る感じ。

トークショー
「トークショー」は、両側のひとり掛けを中央のふたり掛けの近くまで動かして、 ソファーテーブルを囲む形で。上手のひとり掛けに岩田さん、下手に石井さん、 中央のふたり掛けの上手側に森川さんが座る。
各回、それぞれの話からワンフレーズを抜き出して、スクリーンに映し、 それをテーマにした話を中心にトークする。

1日目は、意図的にそういう演出にしたのか、 テレビのスイッチを入れたらちょうど対談番組を放送していた、という感じで、 話の途中から始まる。観客はいないかのように、 ふつうにちょっとよそ行きの会話をしているうちに、チャイムが鳴り、終了。
1回目などは、 どう反応したらいいかわからないトークが数分続いた後(笑うようなポイントもなし)、 話の途中でぶった切り。思わず「ええー」という、 ブーイングというよりも驚きの声が、客席から上がる。 時間が短かったこともあって、その後に出演者が並んでお辞儀してハケても、 それで終わりということが信じられない観客たち。 後ろの扉が開いたので、しぶしぶ席を立った。
2回目(1日目夜の部)は、1回目よりは時間が長く、笑いを取る発言もあったりして、 多少は「トークショー」らしくなった。 それでも、よそ行きトークだし、同じ内容の繰り返しばかり。 これが話したかったんだな、ということが伝わってこない。
2日目は、スクリーンに映した文字を石井さんが読み、 その文をどういうつもりで書いたか、ということから始まる形に。 さらに、作家としての石井さんに、文章の意図や背景を訊く内容も織り込んで、 興味深い発言も聴けるようになった。

そんなわけで、客席とのコミュニケーションは特になく、リアクションなどはなし。 間の取り方で、笑い声などの反応を感じてるな、というのはわかるけど。 舞台の上で対談しているのを、客席から見学している、という形。 そういう意味では、正しい「トークショー」ではあったかもしれない。
でももう少し、テレビの中での対談でもいいから、制作の裏話とか、 作品に対する思い入れや、役作りで考えたことなど、 今回の公演を作り上げるにあたって掘り下げた内容を中心に聴けると面白かったかな。 模範解答のような恋愛観よりも。

トーク内容
1回目(26日昼の部):
「男と女は繋がるもの同士が
自然と寄り添うようにできていて…」

第一章「届かない女」から、状況説明を終えるあたりのモノローグ

すごくちぐはぐでまとまりがない(言葉を多く使っているが、 何を言いたいかわからない、 「演じている」「台本を読んでいる」感じの)対談だったので、 印象に残った言葉だけ。
石井「若いときだと不自然でも勘違いしてしまうけと、歳を取ると、 不自然な出会いにはドキドキしなくなってくるんですよ。」
森川「出会いを求めすぎるより、今の立場を生きていくほうが、 より素敵な出逢いがあるような気がする。」
石井「ある程度歳を取ってからだと、恋愛の先のことを考えないといけない。 だから、自分はどうしたら、っていうことを考えていたほうが、 自然と、今の自分にぴったり合う異性と出会えると思う。」
森川「無理して、っていうのが、いちばん駄目なんだよね。女性にしろ男性にしろ、 どっちかが無理してしまうと……。」
ここでフェードアウト、暗転。

2回目(26日夜の部):
「わからないか?
好きだからさ。他に何の理由がある?」

第二章「ゼロの女」から、締めの台詞

石井「子供の頃の好きになる理由って、ピュアだと思うんですけど。足が速いとか。 だんだん曖昧になってきて、例えば学歴とか、次男だとか。」
森川「大人って、理由を付けたがるよね。 どうして私のこと好きなの?、って言われたときに、探すわけじゃないですか。 自分の中の言葉で。でも相手からすると、そんな言葉をもらいたいわけじゃない。」
石井「確かめたいだけ。具体的に言ってもらえると安心する。」
森川「僕は、出会ったときのフィーリングとか大切にするほうで、 なんで僕はこの人のこと好きなのかな、とかって考えないですね。物とかも。」
岩田「ファーストインプレッションってあるよね。でも変わってきちゃう。」
森川「打算的になるよね。例えば、このテーブル欲しいな、と思ったときに、 家に入るかな、とか、他の家具に合わないな、とか。」
石井「男女もそういうところありますね。誰かを好きになったときに、 ああでもこの人は土日休みじゃないんだわ。」
森川「私の会社と合わない、ってこと?」

森川「おじいちゃんおばあちゃんになって、死に際に、理由を探したくない。 君と一緒にいられてよかったよ、でいいじゃない。切々と語られてもね。」
岩田「でも、それを言える伴侶って、相当だよね。」
森川「おじいちゃんおばあちゃんのラブラブな姿っていいよね。言葉いらない。 歳を取ると、子供に戻るんじゃないけど、本当にピュアになるんだね。」
岩田「最初ピュアだったのが、いろいろ付いてきて、またピュアに戻る。」
石井「素敵ですよね。」
岩田「石井さん、書けるんじゃないの?」
石井「80代の?」
岩田「80代…は、読める人が。俺、自信ないし。もうちょっとシルバー世代の。」
森川「ロマンスグレーの、ちょうどリタイヤする頃のカップルで。」

3回目(27日昼の部):
「好きだから、好きになってほしい。
そんなものはただのエゴではないのか?」

第三章「港の女」から、彼女の気持ちから目を背けるときのモノローグ

石井「三章は、岩田さん、最初からすごいガンガンに怒ってたんですけど。 今でも怒ってる。これを俺が読むのか、って。」
岩田「俺、何回も確認したよね。森川くんと稽古に入ってからも、数回確認した。」
石井「これは俺が読むのか、って。そうですよ、お願いします。」
岩田「(森川さんに)彼女に、自分をプレゼンしたの。何度も。ずっと。」
森川「じゃあ、しょうがないね。」
岩田「(石井さんに)すごく訊いてみたいんだけど、どうしてあれを俺に? いつも、岩田さんのそういうところ聴いてみたいから、って言うけど。」
石井「あ、岩田さんのそういうところ聴いてみたいから。」
森川「一方通行だね。」
岩田「ああ、僕の片想い。僕は好きだから、僕のことをわかってほしい。」
森川「でもふたりは、うまくいってると思うよ。」

森川「片想いは、伝える以前に終わってしまうこともあるよね。 それが自分の中で残ってたりしない?」
岩田「昔あった。伝えようと思った日に彼氏がいることを知って。 あのとき言ってたらどうなったのかな。 今なら、伝えるべきだったんじゃないかな、と思うけどね。」
森川「中学のとき、ある女の子を好きになったんだけど、 つるんでた友だちがみんな、同じ子を好きだった。これはたいへんだよ。」
岩田「どうなったの?」
石井「その子は、その中のひとりと付き合ったりしなかった?」
森川「付き合いました。」

森川「僕たちの頃は、グループ交際ってあったじゃない。」
石井「3対3でとしまえん行ったり。」
岩田「としまえんなんだ。」
石井「または後楽園。」
森川「僕は、神奈川スケートリンク。」
岩田「森川くんは横浜出身なんだよね。」
森川「だから本当に、山下公園が超デートコース。」
後ろのスクリーンを指すようなしぐさをする。そのときには映ってないが、 直前の第四章では、横浜が舞台で、山下公園の風景のイラストもあった。
森川「中学の頃から、普通に山下公園でデートしてましたよ。」
石井「カッコいい。」
森川「そこしかないからね。山下公園はタダだから。」
岩田「としまえんや後楽園は、金がかかるからね。」
石井「フリーパスで3200円。」
森川「横浜は街並みが港町だから、散歩するだけでもいい。」

森川「シチュエイションは大切だよね。想いを伝える場所とか。 男はすごく考えるけど、女性もそういうの大切?」
石井「そういうことを考えてくれる気持ちがうれしい。 こうしたいけど相手はどうかな、って思いやる気持ち。 でないと、一方通行になっちゃう。」
岩田「好きだから欲しい、だけじゃなくて、伝えたり与えたりもしないとね。 欲は必要だから、欲と与えるのバランスかな、って。」
森川「人間だけだよね、欲があるのは。」
岩田「そうだね、余計な欲がね。」

4回目(27日夜の部):
「幸福へのカウントダウンか。
それとも、
後悔へのカウントダウンなのか。」

第四章「埋める女」から、最後の台詞への導入

石井「人を好きになったとき、相手に伝えるって、 ものすごく怖いことだと思うんです。受け容れられなかったら、っていう、 葛藤の気持ちを書いたんですよ。四章の男の子は、とても勇気のある子なので。」
森川「彼的には、どっちに転ぼうが、幸福のカウントダウンだと思う。」
石井「そうですね。彼の場合は、人を好きになる方法がわからなくて、 その感覚を初めてつかんだ、それだけで幸せなんですけどね。」

4つの話を振り返って。
岩田「ストーリーをもらった後、キャラ表をもらってるんだけど。 石井さん、あれね、もっと早く出してくれたほうがいいよ。」
森川「でも、キャラ表ない間、すごい楽しかった。ちょっとドキドキしながら。」
石井「私は、人物の履歴を最初に考えてから書いてたんですけど、 でもあれを渡してしまうと、偏ってしまうのかなと思って。」
岩田「でも、ある程度作家さんの意図を伝えてもらえると有り難いよね。 実際、三章。」
森川「三章は必要かもね。それ以外はなくてもいいかなって思ったけど。」
岩田「三章以外はイメージしやすいけど、三章は劇的に変わったよね。」
石井「偏差値上がりましたね。」
岩田「最初はもっと下品に作ってたんだけどね。意外とIQ高い人なんだ、って。」

岩田「すごくリアリティがあったんだけど、モデルはいるの?」
石井「一章の男の子は、よくお世話になってる編集さん。 ちょうど書いてるときに、ブログ作家の料理本をもらったんで、 彼だったらどういう恋愛をするんだろうな、と思って。」
岩田「ちなみに、その人は、(今回の公演に)いらっしゃったんですか?」
石井「はい。昨日のお昼に来ました。あれ?、って思ったんじゃないかな。」
森川「後悔のカウントダウンだね。」

森川「四章は?」
石井「友人に、潜水士を雇っている会社に勤めている女性がいるんですよ。 彼女から話を聞いて。」
森川「面白い表現だと思ったけど、味噌汁の中、って。」
石井「すごい濁った海で、バディがいないらしいんですよ。ひとりで潜る。」
森川「孤独っていうか、人肌を求めちゃうのわかるね。それで自分を保っている。」
岩田「四章は、すごく映像が浮かぶ話だよね。」

森川「朗読って、ついつい演じちゃうけど、聴く人が想像するスペースを与えることが、 朗読の楽しさだと思う。すべてを与えちゃうなら、映像でもいい。 こういうシンプルなスタイルで朗読することで、 演じ手と聴き手の見えないやりとりが見えてくるんじゃないかな。」
岩田「イラストと声とピアノで、いかに行間を想像してもらえるか、 行間に想いを込められるか。そういう意味では、今回はすごくよかった。」
森川「けっこう、僕は誉められてる?」
岩田「えーとね、すごい誉めてる。」
森川「うれしい。」

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