「ドクトル・ジバゴ」の他は特に印象に残る作品がなかったので、
作品の出来より何度も観て楽しめる作品を上位に。
「アメリカン・アウトロー」は軽めの娯楽作品で、
主演コリン・ファレルの爽やかさとアクション・シーンが魅力。
「アニマトリックス」は、エピソード5「プログラム」、
エピソード7「ビヨンド」への評価。吹き替えリストに邦画が入ることはなく、
日本人らしい感性が新鮮だった。「あなたのために」、「シャンプー台の向こうに」は、
観終わった後味の良さ、「サイン」は映像のセンスで。
ミステリーとしては失敗作だろうが、一家の寓話、
ファンタジーとしてみるなら共感できるのでは。「N.Y.犯罪潜入捜査官」は、
TV画面で普通に楽しめる作品かと。「ワンス・アンド・フォーエバー」、
「ギャング・オブ・ニューヨーク」、「K-19」は、それなりに見応えがあるが、
2002年の「ブラックホーク・ダウン」のようなインパクトはなかった。
最優秀は「ドクトル・ジバゴ」。2002〜3年にかけて戦争映画が何本か続いたが、
派手なアクション・シーンで戦争を描いた作品より、
ひとりの主人公の生き方を通して戦争、暴力を描き、
直接的な描写も控えめだったこの作品のほうが、
戦争の無意味さ、残酷さが伝わる内容になっていると思う。
吹き替え版は、主役、脇役も含めたアンサンブルの良さが選考基準。
1〜7位までは僅差で、総合力では「ワンス・アンド・フォーエバー」、
フレッシュさで「アメリカン・アウトロー」、この2作はキャスティングも完璧。
珍しく主役級に同年代の役者が揃った「アメリカン・アウトロー」を選んだ。
メル・ギブソンは「ワンス・アンド・フォーエバー」と「サイン」で主演していて、
2作品ともアップが多く、映画の大画面に負けない迫力と存在感はさすが。
チャ・スンウォンは演技というより、
ちょっと古風で大らかな雰囲気が珍しかったので。
最優秀は容姿も演技もナチュラル、自然体の演技が好印象のコリン・ファレル。
他に、アムステルダム・ヴァロン/レオナルド・ディカプリオ(「ギャング・オブ・ニューヨーク」)、
ヨンギ/イ・ジョンジェ(「ラスト・プレゼント」)、
タレク/モーリッツ・ブライブトロイ(「es[エス]」)の演技も印象に残っているが、
この役は森川智之でなければ面白くない、と感じた役柄をノミネートした。
「N.Y.犯罪潜入捜査官」のマイク(ロブ・ロウ)は、妻子のいる仕事熱心な刑事で、
性格もノーマル。会話シーンも息詰まる台詞の応酬というより、
軽いジャブのやり取りで進んでいく、比較的メリハリの少ない役。
何気ない台詞の巧さやニュアンス豊かな声が演技に動きを与えていて退屈させない。
「アメリカン・アウトロー」のジェシー(コリン・ファレル)は、
銃を手にすると超人的な活躍をする、普段は普通の青年。自然体の演技の中に、
飄々とした雰囲気や爽やかさ、素朴さという色々な要素が入っていて、
マイク役と同じく森川智之の一色ではない声、ラフな演技の上手さが生きた役だと思う。
「風林高」のチェ・ギドン(チャ・スンウォン)は、硬派の二枚目半で、
やや古風な青年役。森川智之ならではの大らかさや愛嬌が自然に滲み出ている。
「ブルー・エンカウンター」のウェズリー(アンディ・ラウ)は、
アニメやコミックの主人公に近いキャラ。
ナチュラルな演技とアニメ風のスタイリッシュな演技のバランスがいい。
吹き替えとアニメで活躍する森川智之らしい演技なのでは。
最優秀は「ドクトル・ジバゴ」のユーリ・ジバゴ(ハンス・マシソン)。
いわゆる文芸作品での主役は初めてではないだろうか。
過酷な運命に翻弄されても純粋な心を失わない、
医師にして詩人ユーリの青年時代から初老までを演じている。
特に後半、妻と愛人の間で揺れ動く心情表現と情感豊かな声、
旧友と語り合うシーンでの深い苦悩を滲ませる演技と、
暗く沈み憔悴した声の中に滲むピュアな響き、
ラスト近くでの、息遣いだけで感情の流れを表現するシーンに、
森川智之の個性が出ていて、とても魅力的だ。
助演で印象に残ったのは、
ブライアン・アレン/ジョシュ・ハートネット(「シャンプー台のむこうに」)と、
ウイリー・ジャック/ディラン・ブルーノ(「あなたのために」)。
ハートネットは顔から受けるイメージより声が低めで、
本人の声より森川智之の声のほうが違和感がないような…。
ウイリー役は出番は短いが存在感があり作品を引き締める助演になっていると思う。
生真面目なんだけど天然な青年という役どころ。
真剣な表情をしているのに惚けた天然さが出ていて、
ホアキン・フェニックスの地なのでは、と思ってしまう演技だった。(笑)
宮本充は静かな使命感を胸に戦場の最前線に身を投じる記者を、
平田広明は過去のトラウマからヤクザの幹部にのし上がるクールな青年、
石田彰は銀行強盗という「冒険」に胸躍らせ、
背伸びしながら兄達についていく少年を演じている。
役柄のイメージにぴったりハマった声と演技で、声自体にも魅力がある。
玄田哲章は粗野で暴力的だが悪人ではなく自分なりの価値基準を持つ男の役。
愛人と同じベッドにいる主人公に、自分の過去や生き方を話すシーンが特に印象的。
隅本吉成は慇懃な物腰の知能犯で何を考えているのか分からない男、
エディを演じている。他の4人に比べると特にイイ声でもなく、
オリジナルの役者にぴったり、ということもないが(違和感はない)、
聴いていると耳が離せなくなる。サム・ニール演じるエディの輪郭だけを残し、
隈本吉成独自のエディを自由に演じている、という印象。
声の表情が豊かでライブ感があり、面白い演技だと思う。
ハンサムなバリー・ペッパーを選びたかったが、
ホアキン・フェニックスと旬の役者コリン・ファレルを選んだ。
年齢、キャリアに関係なく、リスト初登場の役者をノミネートしているが、
隈本吉成を助演男優賞に選んだので、今回は新人賞らしく、若い小野賢章に。
女性の少年声では、この作品の世界観、壊れやすさを秘めた透明感とか瑞々しさ、
危うさ等の微妙な匂いが出せなかったと思う。
何ということのない普通の少年を、ごく自然に演じている。
「ラスト・プレゼント」(韓国)、「風林高」(韓国)、
「ブルー・エンカウンター」(香港)。2001年の脚本賞も香港映画。
韓国、香港映画は台詞が多いのか、偶然なのか。
「風林高」は硬派な役柄なので、応援歌のような男らしい歌い方。
「あなたのために」は歌手志望だけど才能があるとはいえない青年役なので、
音程が素人っぽい。役柄の性格が出ていて、歌も演技もお勧め。
あまりにも有名な美しいテーマ曲なので。
「ラスト・プレゼント」のテーマ曲も切なく美しいメロディ。
「ドクトル・ジバゴ」は、音楽が入っていたのか、と思うほど控えめで静かな音楽。
「ロミオとジュリエット」は、美術と衣裳。TV用なので流れが途切れてしまうのが欠点。
「ドクトル・ジバゴ」は、残酷な描写が間接的だったり押さえた表現をしていて、
逆に想像力を刺激される。全体的にこだわりのある映像という印象。
「サイン」は、映画らしいカメラワークやアングルが面白く色彩も綺麗だった。
最後までクオリティを維持できず、後半のクリーチャーの造形がB級なのが惜しい。
「アメリカン・アウトロー」は、アクション・シーンの適度なスピード感、
スタイリッシュさ加減が、お茶の間での鑑賞に向いているのでは。
最優秀は日本人らしい感性のユニークさと瑞々しさで
「アニマトリックス」(エピソード5「プログラム」、エピソード7「ビヨンド」)。
ノートンはソフトな声なので、イメージ的に違和感はなく、
演技のリズムも合っていたと思う。本編のレビューに書いたように、
ベースとなるトーンや狂気の瞬間のキレ味に若干の不満はあるけれど、
森川智之らしい演技の魅力、面白さも出ていたと思う。
役柄的にも刺激的な吹き替えだった。
演技派ノートンを違和感なく吹き替えた、その演技力を評価したい。
3作とも目立った息遣いの演技は入っていない。
真面目な役柄そのままの規則的で綺麗なキス音を入れていた「ドクトル・ジバゴ」に。
作品で選べばもちろん、「ロミオとジュリエット」。
吹き替えの演技なら「ラスト・プレゼント」。敢えて該当作品なし。
森川智之主演の「風林高」を選んだ。「ホット・チック」も楽しい作品。
「ズーランダー」は「風林高」、「ホット・チック」に比べるとクセがある。
想像力で「アニマトリックス」。
「ファンタジークエスト」シリーズは、ストーリーも映像もB級だが、
森川智之の張った声や騎士らしいストイックな声が楽しめるのでノミネート。
演技ももちろん、カッコイイ。
今回のポイントは、「お茶の間で何度も楽しめる作品」、とのことでした。
厨川さん、楽しい企画、どうもありがとうございました。